【命を喰らう】北海道産ヒグマ肉をじっくりコトコト料理して食べてみた!味や匂いは?

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昨今、クマが人里に出てきて事件を起こしている。クマが駆除されるたびに、駆除反対派から抗議の声が上がっているが、それはきっとクマの命を無駄にしていると思われているからかもしれない。
クマだって、食べなきゃ死んでしまう。だから人里に降りてくる。では、どうすれば……?
北海道に住む私・フクが考えた結果は、以下のようなことだった。
「駆除されたクマの命を活かすことができれば、少しは駆除活動への過激な抗議活動が減るのではないか。撃たれたヒグマの命をおいしくいただくことも、あるいは」
死した命も別の命の糧になれれば、少しでも撃たれたヒグマが浮かばれるのではないかと考えたのだ。
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より肉々しい熊肉を探して
ふむ、探せば意外と出てくるものである。

しかし、「ヒグマ肉」というキーワードで探しても生肉として出てくるのはエゾシカやツキノワグマの肉ばかりだった。
北海道のヒグマの肉はないものかと探すこと数分、見つけた。今回は楽天市場の釧路丹頂商店さまのヒグマ肉を購入。
後で後悔したが、どうやら一点ものの肉塊だったらしく、もう同じ商品が店舗に並ぶことはなかった。生のヒグマ肉がちょっと手に入りづらいことも画像で伝えたかった。スクショをとればよかった……。
ヒグマ肉であっても、一点ものなんてなかなか素敵である。まるで私に食べられるためにそこでひっそりと待っていてくれたかのようではないか。
ただまあ、ふつうの女性なら、一点もののアンティークアクセサリーなんかで喜ぶのだろう。なんで私はヒグマ肉で喜んでいるんだ?
若干の疑問とともに注文ボタンを押し、ヒグマが届くのを待った。
そして数日後、白い段ボールの小箱に入ったそれが、届けられた……!
上質な赤身、そして頑丈な筋膜。き、切れないっ……!
白い段ボール小箱には小さく「羆」の文字。手書きである。冷凍便で送られてきた肉塊は、ローカル紙・釧路新聞の紙に包まれて我が家にやってきてくれた。
2日かけて冷蔵庫で解凍し、取り出した肉塊が、これだ!!

全体は美しい赤身
ヒグマすね肉1.17㎏……!商品名に負けず劣らずな大迫力だ!
肉の表面を覆っている白っぽい膜は、おそらく筋膜だと思われる。肉質はみっちりした赤身。
真空パックされてきたのだが、肉が入っていたビニール袋にはわずかなヒグマの血液と思われる赤い液体が入っていた。血抜きしてすぐにパッキングされたのだろう。冷凍されていたとはいえ、新鮮そうだ。
匂いはどうか?
獣肉を手にした際に皆さんも気になっているであろう匂いは、意外としない。鼻を近づけて確認したときに、ほんのわずかに羊肉のような、動物の脂のような、そういう獣っぽい匂いがした気がする……?その程度のものだ。
生肉で臭みがないなら、たぶん調理中もいい香りに包まれて食欲を刺激してくれるに違いないと、この時は踏んでいた。
その判断が甘かったことを、あとでちょっとだけ後悔したのだが。
いざ、調理開始!
今回作るのはヒグマのすね肉シチューである。想像していた通り赤身の締まった肉だったため、ビーフシチューの素の濃さが合うだろうと思ったからだ。
調理工程は以下のとおりである。
- 肉を切り分け、スジを取る
- バットに肉を並べ、赤ワインに浸してまいたけを表面に乗せて30分つけ置き
- 圧力鍋を用意する
- 野菜→肉の順で炒めて加水
- 40分加圧調理
- ルーを入れて完成
さあ、作っていこう。
1.肉を切り分け、スジをとる
スジはそぎ切りのようなやり方で、できる範囲で取り除く。
しかし、ここでいきなり問題が発生した。我が家のなまくら刃の包丁では、ヒグマのスジ周りの肉が頑丈すぎて切り取れなかったのである。
仕方ない。取れる筋はわずかだが、取れるだけ取って一口大にすることを優先しよう。

スジのついた肉塊をあつめた写真である。白い線は全部スジだ。真ん中・上の肉塊左側の帯状に白いのは、スジというよりも腱に近いような……?
筋膜も硬く、包丁の柄に近いところでたたき切るようなやり方じゃないと肉が分裂しない。
くそっ、なんて頑丈なんだ。こんなに硬くて丈夫な肉と筋膜を持った生き物が、時速60㎞で走って追いかけてきてみろ。人間なんひとたまりもないぞ、マジで。
2.バットに肉を並べ、赤ワインに浸してまいたけ表面に乗せて30分つけ置き
ふう。やっと一口大に切り終えた。
そうしたら次は、肉をバットにおき、安物でよいので赤ワインを注いでひたひたになるぐらいにしておく。
なお、バットの右側にある大きめの肉2つは、フライパンで焼いてサイコロステーキにすることになった。

その上にまいたけを割いて載せておくと、ワインとまいたけのダブル酵素が肉のたんぱく質をいい感じにやわらかくしてくれるんだそう。
さっそくやってみる。

……すんげぇ迫力。赤黒い肉塊が真っ赤な液体の中に使って、その上にエゾシカの角のようなまいたけが覆いかぶさっている。
筆舌に尽くしがたいが、感じた通りに書けば「ちょっとグロい」かもしれない。
しかし、ここは肉食を行う立場としてしっかり見届けなければ。
3.圧力鍋を用意する
シチューを作るのに欠かせない、炒める・煮込むの工程は、電気圧力釜に頼ることにした。
これは、我が家のTifal製・クックフォーミー。名前を「くくまる」としている。

このくくまるくんは、炒め・煮込み・加熱・圧力調理が1台でできる代物だ。硬いヒグマ肉もホロホロほぐれるほどにやわらかくしてくれるだろう。
4.野菜→肉の順で炒めて加水
最初はバターで野菜を炒めることからだ。炒める際は、きもちバターを多めにしておくとよいだろう。
というのも、このヒグマのすね肉、ほとんど脂がない。引き締まりまくった密度の高い赤身である。そのため、少し油脂のコクがないと淡白な味になるだろうと考えたのだ。
バターが溶けてプクプクいってきたら、最初に脂溶性の栄養素が多いニンジンを炒め、油が回ったら玉ねぎを加えてさらに炒める。


さあ、ここで本日の主役のご登場だ。
ヒグマのすね肉を、つけ置きしてあったワイン・まいたけと一緒に鍋に入れ、アルコールが飛ぶまで炒め煮にしよう。

5.40分加圧調理

軽く熱が入ったら、水1.1リットルを加えて、ここから加圧40分だ!
普段、カレーや肉じゃがを作るときの加圧時間はせいぜい20分ぐらいのものだが、今回は包丁でもなかなか切れない強靭なヒグマの肉なので、倍の40分間、圧力をかけ煮込んでやろう。
……うおっ!?も、ものすごくワインの香りがする!部屋中にアルコールの香りが充満してしまった!
いやぁ、しまった。炒める際にアルコールを飛ばし切れていなかったか。
酒に弱い私はその香りだけでクラクラしてきた。しかし、ここで倒れるわけにはいかない。
私はヒグマがシチューとなり、その味を読者の皆様に届けるまで気を失うわけにはいかんのだ。
隣の部屋でテレワークをしていた夫が「なんかすごくお酒の匂いがするけど大丈夫?」と覗いている。これはまずい。部屋の換気扇をフル稼働させ、「大丈夫!」と答えて夫をパソコンデスクに押し込める。これはさっき確認した生ヒグマ肉の匂いより強烈だ。
6.ルーを入れて完成
40分加圧して煮込んだ結果、以下の写真のようになんだかおいしそうなスープが出来上がった。


見た目はジャガイモが入っていない肉じゃがっぽい。
肉を救って大写しにしてみる。おお、取り切れなかったスジが透明になってなんだかプルプルしている。これは牛スジならぬクマスジ……!非常においしそうだ!
この時点では味はしないので、いよいよビーフシチューのルーを溶かしていく。ついでに大量のマッシュルームもここで投入しよう。
マッシュルームを入れたあとは、通常加熱調理で軽く煮込んでいく。5分ほど火を入れて、……よし!完成!

おおお!アルコールの匂いはまだ部屋に充満しているが、マッシュルームの豊かな香りとビーフシチューのルーの濃厚な香りが混ざって、なんともいえない食欲をそそる良い香りがするぞ!!
うわー!部屋の中で羊の丸焼きでもしたようなニオイがするー!!!
ヒグマシチューが上手にできてほくほくした気持ちでコンロに向かう。
シチューの次は、さきほどワインとまいたけで漬けておいた肉をサイコロステーキにしていく。コンロ上の換気扇はさきほどのワインの香りを吸ってもらうために全開にしていた。
まな板の上で軽く肉をたたき、パラパラと調理スパイス・マキシマムをふって、フライパンを温める。
よぉし、熱々のフライパンでステーキを焼くぞ!
ジューッ!!

「……くっさ!!!!」
肉が焼ける音とともに、こ、これはなんだろうか?
動物園の動物たちが生命活動を必死に繰り返しているようなニオイ……それに、ジンギスカン肉を食べたことがある方ならわかるであろう、羊肉を焼いたときの脂のニオイ。
それをさらに濃縮還元したような、羊の丸焼きでも部屋の中でやってるんじゃないかと思ってしまうような……?
とにかく、そういうニオイを混ぜて、思い切り熱して水分を蒸発させた、強烈な命のニオイがする!
さらに、この部屋の中にはシチューを煮込んだ時のワインの香りが充満している。
混ざった。どうしよう。たいへんなニオイになってしまった。
抽象的なたとえになるのだが、原初の時代に媚薬があったとしたら、こういうようなニオイなのかもしれない。
酒と肉と野生の香りだ。ああ、なんだかテンションがハイになってきた……!?
ええい、フタだ。とりあえずフライパンにフタをしよう。そうすれば少しはこの強烈なニオイを直に嗅がなくて済むはずだ。

暴走するニオイに翻弄されながらも、なんとか肉の芯まで火を通し切り、ステーキを焼くことができた。
うーん、えらい目に遭った……!
実食!こ、これは……!!!
テレワークを終えた夫を呼ぶと、部屋中に充満するニオイに一瞬動きを止めながら、
「今日の晩ごはん、なに?」と訊ねてきた。
「ヒグマ肉のシチューだよ」とだけ答えた。
(またなんか得体のしれないもの作ったよこのヒト……)とでも言いたげに絶望しきった夫の顔を尻目に、私は二人分のお皿にシチューを盛りつけ、パンを温める。さあ、晩餐の始まりだ。

シチュー実食
私「はい、いただきますっ!」
夫「……いただきます」
今にも泣きそうな夫も食欲には勝てないようで、シチューの肉を少なくしようかと提案したのだが、「普通に入れていいよ」と返事が来た。自分だけ肉の少ないシチューは嫌なようである。
もちろん私のお皿にはたっぷりのヒグマ肉を入れた。
肉をスプーンですくい、一口。
「えっ?あれ?すごくおいしい!?」
圧力鍋で40分煮込んだヒグマ肉は、ホロホロと口の中でほどけ、驚くほど濃い旨みを出している。
肉の繊維の1本1本は、ムチムチと密度がたっぷりで噛むほどに美味しく、スジはプルプルトロトロ食感で素晴らしいアクセントだ。
ザ・肉。この世の肉食文化に腕があったら、それらすべてが「バンザイ!」の声とともに腕を振り上げているような、強烈なおいしさ。
これは……素晴らしい!
「意外といけるね」と、夫。
「そうだね、おいしい!」と、私。
二人でヒグマ肉のシチューを喰らう。しっかりと噛み締めて、旨みを吸い、飲み込んだ。
私たちはいま、命を喰らっている。その神聖さとありがたさに、表には出さないが心がアガっていくのを感じた。
「食べる」。なんという尊い行為なのだろうか。
サイコロステーキはどうしても硬い

サイコロステーキはマキシマムの味だけでは少し薄かったので、あとから岩塩を追加した。
これも美味い。しかし、硬い。
後述するが、クマには寄生虫がいるため高温で芯までしっかり加熱しないと食べてはいけない。
つまり、やわらかいレアやミディアムといった状態では食べられないため、必然的にウェルダンになる。
そうするとどうしても、肉本来の硬さが出てしまうようだ。
一応、焼く前に肉をたたいたのだが、やはりそこはヒグマ。肉が強い。
「んー、でも味はいいよ。硬くてちょっと食いづらいのはしょうがないよね」
夫がノッてきた。
ここでどうしても解決できなかった問題が発生した。取り切れなかったスジが嚙み切れないのである。奥歯でゴリゴリと何度も噛み締めたが、それでも飲み込めないほど丈夫で硬い。
「これは、ちょっとごめんなさいだね」
ヒグマには申し訳ないが、どうしても食べられなかったので、そこはティッシュにペッ、した。
ヒグマステーキでスジを食べられる方法があれば、ぜひ教えてほしい。今後の参考にさせていただきたい。
ヒグマ肉を食べる際に気を付けること
ここまでヒグマの調理過程や食味を書いてきたが、みなさんがヒグマを食べる際に絶対に気を付けてほしいことがある。
それは、「必ず火を通して食べること」だ。
「野生鳥獣肉は、十分に加熱調理(中心部の温度が75℃1分間以上又はこれと同等以上)してから食べるように」と札幌市のホームページに記載がある。
(引用元:札幌市)
今回、私はこの注意書きに従って、圧力調理を40分、ウェルダンになるまでフライパンで加熱する、という調理方法をとった。
クマには旋毛虫という寄生虫がいるため、絶対に生および半生などで食べてはいけない。旋毛虫の食中毒にかかると最悪、死に至るケースもある。
比較的新しいケースとして令和元年にヒグマ肉で旋毛虫の食中毒が起こったこともあるため、ここだけは皆様も注意していただきたい。
まとめ:食べること=生きること
これはあくまで私・フクの考えだが、弱肉強食という言葉の「強食」は「強さを示すこと」でもあるのではないか。
ヒトとヒグマは共存できる。しかし、互いに害をなすようではやはり強さを示す必要があるだろう。
しかし、ただ強さを見せつけるだけでは共存もできないし、駆除という名目で無駄にヒグマの命を奪う結果になる。
ヒトもそれは同じだ。野生のヒグマに面白半分で餌をやってしまうと、それは結局、クマを私たちの命を脅かす存在に「仕立て上げて」しまうことになる。
共存とは、共に在ると書くように、双方の領域を侵犯しないことが大切だ。
そして、あえなく散ったクマの命は、ヒトとクマの共存のために余すことなく使われるべきだと思う。
食べるということは、生きるということだ。
だから、命を喰らったあとは、しっかり手を合わせて唱えよう。
「ごちそうさまでした」と!